「インターネットと宗教」プロジェクト

1999年度研究会・発表要約

田村貴紀「「インターネットと宗教」研究の視角―社会構築主義的視点から―」

要旨

1.先行研究の整理

2.

2-1 CMCが社会の中で増大化することに関する、マクロ的・ミクロ的説明。

2-2 しかし、メディアを社会変容の独立要因として考えるような、メディア決定 論や、逆の社会決定論はとらないこと。相互作用的に連動するダイナミクスの中 にメディアと社会の関係はあり、利用する主体などによるメディアの再定義と意 味付与の過程に注目する。

3.先行研究の中にみられるCMCを通しての宗教的体験に関する記述。

4.対面の会話を録音・録画したスクリプトを分析することと、CMCのログを分 析することの相違に関する指摘。

5.メディアの役割という点を媒介に、現代的な宗教研究の一部として、CMCと 宗教研究を位置づけることの可能性を指摘し、今後の課題とする。

討議の一部

コメント:

1.シンボルという言葉が曖昧に使われている。 2.社会構築主義的な視点をとると、 何でも主観になるので「宗教」というものが茫漠としてしまう。 3.「シンボルと ことばの再統合」という言い方をもっと明示的にせよ。

Q. 「シンボルと言葉の再統合」とは何か。それは本当に新しいことで、それ を行う集団にとってメリットのあること、得なことなのか。

A. 言葉だけで儀礼が遂行されることで、言葉に儀礼をつくる力があることを 再認識させる、という逆説的な事態。具体的には、プロテスタントの聖書中心 主義によって儀礼のなかの象徴から切り離された言葉を、儀礼のなかに取り戻 したということ。O'Leary は、彼自身の宗教的背景から、それがカトリック回 帰という意味でメリットがあると考えているふしがある。

C. 既成宗教の場合、やはりインターネットにかかわることのメリット、デメ リットが問題だと思う。今のところは、当事者ひとりひとりの直接的なメリッ ト、効果よりも、仏教界全体や神道界全体にとってのメリットという動機で行っ ているようだ。日本の宗教の場合、他の宗教と差異化するのは言葉ではなく映 像や音声なので、天理教の神殿中継のように、そちらに注目するのはよい。

C. 歴史のある既成宗教だから「再統合」と言える。メディアのなかで発生し てきたようなものはあるのか。

Q. 「シンボルをめぐるディスコース」の例として「偲ぶよすが」や「疑似的 行為」が挙げられているが、これらはいずれも、正確にはインフォーマントの 言明そのものではなく、それへの研究者の解釈である。これは、意味付与のプ ロセスに研究者も巻き込まれざるをえないということを示唆しているのか。

A. 「誰が言ったか」ということは明確にすべき。

C. べつに CMC に限らず、民俗芸能の世界などではよくあることだが。

Q. 「宗教団体・信者が CMC を利用する中で、どのようにそれを定義/再定義 するのか」という観点に、社会 (時代社会的なもの、制度、政治的レベルも含 めて) はどう関係づけられるのか。

A. 現時点では手にあまる問題だ。

黒崎浩行「神社ウェブサイト運営者におけるインターネット利用の姿勢について」

要旨

情報メディア環境におかれた宗教教団のリーダー、参加者における社会や信仰 形態の再解釈に焦点をあてる。インターネットに代表される CMC (Computer- Mediated Communication) の特性は、利用者が自分の目的や好みにあわせて多 様に設定しうる「カスタマイズ・メディア」(池田謙一・柴内康文)であると言 われるように、その技術的特性はどうあれ社会的なレベルでは多様な形態をと る。それゆえ、当事者の社会過程のなかでの CMC の位置づけをふまえた理解 がとりわけ重要である。宗教ウェブサイトの傾向を把握するさい、前に「自己 開示」「世論へのアピール」「ヴァーチャル儀礼」「集会・相談」という分類 を提示したが、これも CMC 内外の社会関係構築という軸のもとに再検討する 必要がある。

本研究では神社ウェブサイト運営者へのインタビューをもとに、インターネッ ト利用に対する CMC 内外の社会的文脈をふまえた解釈過程を分析する。上宮 天満宮 (大阪府高槻市) は、京阪神地域のベッドタウンである高槻市の駅前市 街地域に位置する神社である。現宮司は1996年に就任すると同時に社史の編纂、 ホームページの開設に取り組んだ。また、神社への「寄与率」という観点から 氏子制度を見直し (地縁氏子・御縁氏子・影守氏子) たが、これは氏子町の人 口減少と新興住宅地への人口流入と、さまざまな能力をもつ神社への協力者と のインターネットを通じた出会いがかかわっている。そして、既存の共同体的 紐帯を共有しない人々への自己の呈示という文脈のなかにインターネット利用 が置かれている。「集会・相談」に該当するような CMC 内での自足的な相互 行為は重視されていないが、これは個人の私事的な領域の充実・拡大を期待し ていないためである。

討議の一部

(Q = 質問、A = 応答、C = コメント)

Q. 利用者の反応、サイトのアクセス数、アクセスログから分析可能な利用者 の特徴なども聞くべき。アクセス数については、年10万以上アクセスがあるよ うなサイトでなければコミュニケーション機能があるとはいえない。

A. 利用者側の問題はいずれ扱いたい。

Q. 特定地域のみの広がりを目的とするようなインターネット利用は、昔の有 線と同じではないか。

A. そうとも言えるが、各個人の私的領域に入り込んでいくという点で異なる。 会社のコンピュータで検索して七五三の予約をするお父さんなど。

C. 地域内の流入者への広報というベクトルだけでなく、逆にドーナツ化が進 む都心部の神社では、他地域に移った元氏子からメールが寄せられるという例 もある。

C. 世界に広がる宗教と地縁に縛られる宗教、あるいは言語の宗教と非言語的 な宗教といった相違を考えた場合、キリスト教 (プロテスタンティズム) は 自らの本質に何も変更を加えることなくインターネットを利用できるが、神社 はまさにその本質の再解釈を迫られてしまうということではないか。そのさい、 テキストだけでなく画像が発信できるようになったことは重要な意味をもって いるように思う。

深水顕真「インターネットは地域的宗教構造を変えうるのか? ―広島県における宗教ウエッブサイトの現状―」

要旨

(本発表を発展させた論文が、報告書『電子ネットワーキングの普及と宗教の変容』に収録されています。)

川島堅二「ウエッブサイトの内容分析―日本の宗教団体を中心に」

要旨

(本発表を発展させた論文が、報告書『電子ネットワーキングの普及と宗教の変容』に収録されています。)

田村貴紀「天理教調査報告」

要旨

(本発表を発展させた論文が、報告書『電子ネットワーキングの普及と宗教の変容』に収録されています。)



$Date: 2001/02/21 10:18:44 $
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