第4回学術大会

日時:1996年6月15(土)・16(日)
会場:愛知学院大学
   〒470−01 愛知県日進市岩崎阿良池12
    電話 05617−3−1111(内線210)
大会事務局:宗教学科研究室

プログラム

 6月15日(土)
  研究発表 13:00−16:50(発表25分、質問25分)
  総会   17:00−17:50
  懇親会  18:00−20:00

 6月16日(日)
  ワークショップ
    午前の部:10:00−12:00
     (昼食 12:00−13:30)
    午後の部:13:30−15:30または17:00
  ワークショップ1「現代アジアにおける宗教の変動」
  ワークショップ2「1980年代・宗教研究を読みなおす」
              ―「ポスト宗社研」の課題と展望」
  ワークショップ3「「宗教」としてのオウム真理教―その研究課題と展望」

研究発表

第1部会
 川又俊則(成城大学大学院)
  「宗教研究における「調査」の問題」
 井上順孝(国学院大学)
  「〈新新宗教〉概念の学術的有効性をめぐって」
 熊田一雄(愛知学院大学)
  「宗教心理複合運動と「聖母」の脱構築―GLA系諸教団の事例」
 葛西賢太(上越教育大学)
  「セルフヘルプグループと近代的アイデンティティ」

第2部会
 織田誠司(東京都立大学大学院)
  「現代エジプトにおけるムスリム聖者とは何か―人類学からの一試論」
 浅井宣亮(愛知学院大学大学院)
  「アメリカ社会における日本仏教(曹洞禅)の展開」
 萩原修子(日本学術振興会)
   「ベトナム南部村落社会におけるキリスト教会の変遷―タン・チウ村の事例を中心に」
 岡田浩樹(国立民族学博物館)
  「沈黙する多数派―韓国仏教についての試論」

ワークショップ

ワークショップ1:現代アジアにおける宗教の変動

1.問題提起

 今日のアジアは、経済的にも政治的にも大きな社会変動を経験している。とりわけ、東アジア、東南アジアの国々が世界の経済成長のセンターになりつつあることは疑いえないことであろう。また、急速な経済成長を遂げ、国際的地位を掌中にしつつあるアジア諸国は、政治的にも地域的にもまとまりを形成しつつあるようにみえる。このワークショップは、現代のアジアにおける宗教の変動を、華人社会に注目した発表をふまえて討論しようというものである。華人社会に注目する理由としては、第一に、アジアの経済成長をリードしているNIESやASEAN において華人が経済的に大きな役割をはたしているからである。第二に、華人はアジア諸国に広がっていることから、華人研究を通じて、諸地域の比較研究が可能なると期待できるからである。このワークショップでは、華人の宗教世界が、今日の未曾有の社会変動の中でどのように変化し、どのような機能をはたしているのかを、台湾、シンガポール、マレーシア、タイの報告をもとにして検討しようとするものである。
 とりわけ、東アジアの経済成長と宗教との関連を説明するモデルとして、近年、儒教文化圏論が提唱されている。たしかに、家族集団主義や学習主義などは儒教文化に由来するもので、それが産業化推進にポジティブな要因をはたしえたかもしれない。しかし、儒教の受容の仕方は、東アジアの諸国でさえバラバラであり、東アジアの宗教的エートスの中核は儒教というよりも、習合的で弾力性に富む民衆宗教的なもののようにみえる。そこで、われわれは、島嶼部を含むアジア各地で活動している華人の民衆宗教的世界に着目し、現代アジアの宗教にどのような変動が起こっているのかを探求し、討論しようとするものである。


2.構成

発表者と発表題目(いずれも仮題)
熊田 一雄 一貫道の現代化と華人都市中産階級
(林淳・山中弘 マレーシアにおける創価学会)
藤井 健志 戦後台湾における宗教動向
吉原 和男 タイにおける徳教の展開
佐々木 宏幹 東南アジア華人社会のタンキー信仰
司会 山中弘・林淳
コメンテーター未定(若手)

運営の仕方・時間配分

 午前中(10時〜12時)に発表をおこなう。各発表者の持ち時間は20〜30分程度。午後から司会が論点を整理し、コメンテーターが短いコメントをおこなった後、自由な議論を参加者全員でおこなう。テーマも大きいので、あまりまとめようとしないでいろいろな論点を発見することを心がけたい。

ワークショップ2:1980年代・宗教研究を読みなおす−ポスト「宗社研」の課題と展望−

1.問題提起

 1995年1月に東京および近県に在住の大学院生が中心となって「近現代宗教研究批評の会(批評の会)」が結成された。この会の基本方針として掲げられたものの一つに、「過去の研究成果の批判的継承」がある。今回のワークショップでは「宗教社会学研究会(宗社研)」参加メンバーの研究成果に注目して論じていきたいと思っている。
 宗社研の成果は、4冊の論文集・新宗教ハンドブック・新宗教事典に止まらず、その参加メンバーの多くの論文・著書などにあらわれている。研究活動は、常に先行者の研究成果に負っている。批評の会メンバーなど、いわゆる若手研究者にとっては、1975年から90年まで、つまり80年代を中心として活動してきた宗社研の業績に負うところが大きいと言えよう。しかし、この蓄積された研究成果に対して、我々(=若手)自身による批判的検討がいまだ十分になされているとは言いがたい。そこで、自らの研究テーマと関連づけつつ宗社研の成果を読みなおし、これを乗り越える視座を提出して討議することが有意義ではないだろうかというのが、このテーマの提案理由となっている。
 四つのテーマを設定したが、それらを要約すると次の通りになる。

<宗教運動>
・1980年代の宗教社会学研究における「宗教運動論」研究を整理し、現在の「宗教運動論」の課題と展望を提示したい。とくに近年の「社会運動論」の研究動向を参照しながら、「宗教運動」の分析枠組について再考する。

<教えと思想>
・新宗教を固有の対象領域として把握するさいに重要視され、生命主義的な救済観・内在的理解などのキータームを生んだ「教え」研究を振り返り、その方法論的問題点と、世界諸宗教の研究へのリンクの可能性を検討する。

<宗教と「語り」>
・「語り」そのものに着目し、日々営まれている信者間の相互行為から新宗教を描きだすことの新宗教研究への可能性を示唆する。理論的根拠のみにとどまらず、新たな方法論の提示を巡る議論が展開されることを望んでいる。

<宗教と女性−ジェンダー論へのシャーマニズム研究からのアプローチ>
・本報告では人類学の立場から、日本国内に広く分布するシャーマン及びそのクライアントの多くが「何故女性であるのか?」という問題についてのこれ迄の議論の批判的検討を行った上で、ジェンダー論への接続を試みる。

2.構成

 三部構成にする。
 一部(10〜12時)と二部(1時30分〜3時30分)はレポーターの発題(一人30分)とコメンテイターの応答や問題提起、及びそれぞれの内容に関する議論、三部(3時40分〜5時)は総括討論とする。
 先に挙げた内容のうち、一部では大谷栄一が<宗教運動>を、黒崎浩行が<教えと思想>を、二部では菊池裕生が<宗教と「語り」>を、平山眞が<宗教と女性>をそれぞれ担当し、当日のレポーターを務める。
 また、コメンテイターを対馬路人氏(関西学院大学)と川村邦光氏(天理大学)に、また全体の司会を芳賀学氏(上智大学)に依頼したところ、いずれも快諾された。
 当日は、この内容に関して、参加者全体による議論を通じて自らの研究に生かせるようにしたいと思っている。

付記:学会までの毎月第4土曜日の例会は、4月:黒崎報告の検討、5月:全体の再検討、という内容で行う予定です。参加希望者や詳細を知りたい方は下記へご連絡下さい。
 (0429-56-5757:近現代宗教研究批評の会・事務局・川又俊則)

ワークショップ3:「宗教」としてのオウム真理教―その研究課題と展望―

1.問題提起

 昨年度、新宗教研究会ではオウム真理教に関する公開シンポジウムと5回の研究例会を行った。今回はこれまでの活動成果を踏まえて、これを広く学会会員と共有することを通して「宗教としてのオウム真理教」研究の課題と方向性を発見したい。なお、ワークショップでは5〜7名程度のグループに分かれてのディスカッションの時間を設け、より深くインタラクティヴな討議をしたいと考えている。
 ところで、我々があえて「宗教」としてのオウム真理教にこだわる理由は何であろうか。確かに、すでに一連の事件は、もはや宗教理解の範疇を越え、適切な司直の判断を待つしかない。だが、信者のなかには少なくとも一時期は真摯な求道者がいたことは事実であろうし、そして今もいることは想像に難くない。事件への教団関与が次々に明らかになっても未だ教団を離れず、「尊師崇拝」の言葉を口にする信者がいることを考えると、麻原彰晃が抱いたであろう野望や打算を越えた、しかもマインドコントロールや拉致監禁とも異なる「何か」を考えざるをえない。このことから、事件の原因解明という点では迂回するかもしれないが、小さなヨーガサークルが破壊的な集団に転化し、道を求める人々が、ためらわず犯罪に手を染めることを正当化してきたという、この教団の持つ価値合理的志向性、組織の持っている紐帯、教義・儀礼等の宗教的特色を、これまでの宗教研究の蓄積をふまえつつ、我々はあえてワークショップで扱っていきたいと思う。
 ただ、様々な要素を含み、短期間に変遷を重ねてきたオウム真理教の問題は複雑で、しかも多岐にわたっている。したがって、ワークショップでは、下記のように主としてその宗教思想と宗教体験に対象を限定する。もちろん、一連の凄惨な事件を捨象してオウム真理教について議論することは許されず、オウム真理教が関わった犯罪、地域社会との軋轢、組織上の問題など、「社会の中のオウム真理教」については、別途、例会等で議論を継続していく準備があることを付け加えておく。

2.構成

第1部 宗教思想としてのオウム真理教(司会 弓山達也)
   (10:00〜11:30)
 ○福嶋信吉「オウム真理教と宗教研究」
 ○武田道生「オウム真理教の終末論」
 ○樫尾直樹「スピリチュアリズム・神智学とオウム真理教」
第2部 宗教体験としてのオウム真理教(司会 樫尾直樹)
   (11:30〜14:20、途中、昼食休憩をはさむ)
 ○高島 淳「タントリズムとオウム真理教」
 ○尾堂修司「オウム真理教の修行体験」
 ○弓山達也「オウム真理教における宗教的経験の諸相」
第3部 グループディスカッション
   (14:20〜15:20)
第4部 自由討議(司会 井上順孝)
   (15:30〜17:00)

◆企画委員:井上順孝・尾堂修司・樫尾直樹(代表)・武田道生・福嶋信吉・藤田庄市・三ツ木真弓・弓山達也