「情報の形態による利用と効果の違い−脱会に与える影響」

猪瀬優理(北海道大学大学院)

入信過程や入信動機に関する研究は多数行われているが、脱会する過程や動機についての研究は数少ない。しかし、「入信」をパースペクティブの受容と拒絶の間で揺れ動く過程として捉えると脱会という現象まで含んだ議論が必要となる。ここでは、ものみの塔聖書冊子協会から脱会した信者を事例にして、脱会するプロセスについて分析を行った。

本発表では、パースペクティブの受容・拒絶を選択するための決定要因として、教団内外の人間関係の強弱と教団内外の情報に着目し、脱会の仕方の違い(脱会カウンセリング経験者、自発的脱会者)によって脱会の仕方や条件にどのような違いがあるのか比較考察し、自発的脱会者(特に二世信者)にとって、教団の外部者や既に脱会したもと信者のサイトなどインターネットを通した情報が脱会を促進する際に重要であることがわかった。しかし、インターネット情報の流通形態は様々であり、それぞれが同一の効果をもたらすとは考えにくい。そこで、調査協力者のなかでも特に利用の多かった情報提供のみのサイト、匿名掲示板を中心としたサイト、閉鎖的なメーリングリストという3種類のインターネット情報の利用の程度と効果について比較した。このとき注目したのは、その情報提供能力と提供するコミュニケーションの効果である。また、脱会カウンセリング経験者と自発的脱会者の間で利用の仕方と効果に違いがあるかどうかも比較した。

結果、掲示板やメーリングリストなどのコミュニケーション提供が主眼のサイトでは、自発的信者が脱会した後の精神的ケアに役立つことは確認できたが、脱会を促進している効果自体は確認できなかった。また、脱会カウンセリング経験者は、脱会カウンセラーや元信者との交流が比較的とりやすいため、特にインターネット上の情報やコミュニケーションを必要としていなかった。インターネット情報は特に自発的脱会者にとって効果をもたらす。閉鎖的教団であっても、インターネット上の情報は比較的触れやすいことと、また匿名でのコミュニケーションが比較的容易であることがこのような効果をもたらしているものと考えられる。

(発表者による要約)

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猪瀬優理 質疑応答

質問 入信と脱会を同一のプロセスとしてシンメトリーに考えられるモデルを用意した方がいいのではないか?

猪瀬 入信すれば終わりではなくてその後もあると考えているので、シンメトリーにできるかどうかはわからないが、今作っているモデルには不備が多かったので考え直したい。

質問 エホバの証人はインターネットの危険性について指摘しているというけれど、教団は充実したホームページを持っているが?

猪瀬 対外的に情報を流すホームページは持っているが、一般の信者のレベルでは、惑わされてしまう可能性があるとして見ないようにという指示をしている。

質問 実際には見ているのではないか?また、信者と脱会者の間に交流がないようにも聞こえたが、そうではないのではないか?

猪瀬 具体的に防ぐということはしていないと思う。また、交流もあるので実際には4つに分けた以上に複雑な細かい違いがあるだろう。

質問 インターネット以前のマスコミなどの場合と、インターネット以後とマイナス情報に対してアクセスする可能性がどれぐらい増えたか?

猪瀬 具体的な数字は分からないが、マスコミではエホバの証人に対するマイナス情報は、頻繁に批判が行われている教団と比較してあまりないと思う。インターネット以後増えている思う。

質問 性差というものと脱会プロセスに影響が関係があるか?

猪瀬 1世の場合、多くは女性で、家族が反対しているという形で脱会カウンセリングを受けて脱会する、ということが多いが、男性の場合は起きにくい。
2世の場合は、たまたまなのか、本当に男性の方が多いのか分からないが、インターネットを通じて知り合える人は男性のほうが多いという感想を持っている。

(質疑応答は、発表のテープ起こしを元に田村貴紀が要約した。)
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